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前人未到の就職支援を!非大卒特化のワケとは

若い働き手が不足する中、高卒採用に新興企業が熱い視線を注いでいる。

高卒採用、慣行に転機 「1人1社」に新興企業が異議https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50105680S9A920C1NN1000/

最近では、大卒以外の就職・キャリア支援サービスも登場するなど、採用・転職市場は活気づいている。そんな中、2019年2月に始まったキャリア支援サービスが「サムライキャリア」だ。特徴は中卒・高卒・専門学校卒業の人材に特化していることだ。

これまでにオンライン・オフライン含め、延べ2000人ほどの若者の就職をサポート。登録者は毎月1000人を超えていて、東京をはじめ、埼玉・千葉・栃木・茨城など居住地は様々。土日しか面談ができない人もいるため、ほぼ休みなく対応しているという。

なぜ、大卒ではなく、非大卒に特化したのか。サムライキャリアを展開する株式会社前人未到の代表取締役・牛島悟氏(28)に話を聞いた。

「タイマン」で負けて3か月で退学

福岡で育った牛島氏は、入学した高校をわずか3か月で退学している。その理由は「タイマンで負けた」。タイマンで負けたほうが退学するという条件で、負けたため退学したという。

その後、とび職などいくつかの仕事を経験したが、長く続かず、働きたくないと思ったという。そんな状況から抜け出すキッカケとなったのは、兄の存在だった。

「兄がいわゆるエリートで、友人もたくさんいたんです。兄の友人たちはみんな勉強できて、将来ああなりたい、こんなことがしたいと言っていたんです。それを聞いて、勉強ができるのって楽しいし、選べる物事も多いなと感じたんです。そこで焦燥感が生まれました」

これをキッカケに、牛島氏は高等学校卒業程度認定試験の合格を目指して勉強を始める。測定不能とされるほど低かった偏差値を一気に上げ、そのまま東京の大学へと進学、大手企業に就職する。

しかし、最初に配属された鹿児島での仕事をつまらなく感じ、2年ほどで転職。事業をやりたいと思い、2社ほどで働いて実績を積むなどした後、前人未到を立ち上げ、サムライキャリアをスタートさせた。

全員に質問「何が欲しくて、何が捨てられるか」

サムライキャリアは「リアリスト」として、非大卒の若者たちにアドバイスや支援をするという。

「例えば、希望の仕事を聞くと、月給●●万円以上の仕事、月に●●日休める仕事など、条件面での希望が多いです。また、イメージのいい仕事や華やかな仕事を希望する人もいます。でも、それは仕事のリアルを見ていないので、そのまま仕事についてもイメージと違う。なので、まずは現実を話します。何が欲しくて、何が捨てられるかは、面談した全員に聞きます」

「重要なのは、この仕事をやってみたいなと思ったときに、チャレンジができてそれを相手に選んでもらえることです。ただ、自分がやりたいだけではダメ。そこは恋愛といっしょで、好かれる人にならないと」

「例えば100人中、99人がなりたい職業があったとして、1人しか採らない状況だったとします。でも、100人目に、ほかの99人よりスキルが高い人が来たら、会社はその人を採用するでしょう。それが現実なんです」

サムライキャリアが紹介する会社は、営業など厳しいイメージの強い職種が多いという。

「例えば、有名な会社に行ける場合もある。でも、行けたとしても、行くべきではないと思います。置かれた立場で、スキルを1つ1つ積み上げていくことが重要なんです。仕事もそうですが、世の中は結果が全てです。努力を認めるのは周りで、本人ではないです。でもその上で、人生には希望しかないとも伝えています」

「苦しむことを否定しないし、仕事は楽しいことではない。イチローさんが引退会見で、『野球に達成感・やりがいは感じられたが、楽しみは感じなかった』と言っていました。これがプロ意識です。こういう考えなら、楽しいかどうかに、苛まれなくてすみます」

やりたいことは探さなくていい

さらに、牛島氏は「やりたいことは探さなくていい」と語った。

「やりたいことは探さなくていいと思います。やりたいことがないから、探さないといけないという考えは僕は違うと思います。例えば個性は、情報との接続で起きています。人間の個性や志向性が『丸』だとします。そこに『情報』という『線』がいろんな角度からたくさん入り、三角形みたいのができる。それが『いまやりたいこと』なんです。時間が経って情報が入ると、さらに形は変わっていきます。それを自分の意思でコントロールしようとする、つまり『やりたいことを探す』というのは不自然なんです」

「大事なのは、やりたいことに捕らわれるのではなく、やりたいことが見つかったときにそれを選べる勝者になることです。だからスキルを身につけましょう、まずは人間として成長しましょうという話です」

実際、サムライキャリアでは、最初の面談に2時間程度を費やすという。若者たちとの対話を通して、信頼関係をじっくりと構築するためだ。対話だけでなく、LINEを使ったコミュニケーションも頻繁に行っているという。

LINEでのやり取り(提供:前人未到)

一見、順調に見えるサムライキャリアだが、開始直後、サービスをストップしたことがあったという。

「幸せの定義を押しつけていたんです。僕は頑張ってない人が好きではなかったんです。でも面談をすると、そういう子と出会ってしまう。頑張ることが幸せにつながると思っていたので、意欲がない子と出会うと、なんでだろうと思ってしまい、サービスをストップした時期もありました」

「キャリアの成功と人生の成功、一緒なようで違うと感じたんです。10人面談をしたら、9人に腹が立ちます(笑)。ただ、僕らに会って変わる1人がいれば、それでいいし、別に変わらなくても幸せなら、それでいいかなと思えたんです」

「僕もいきなり変わったわけではないです。一つ一つステップを踏んでここまできました。一気に頑張ろうとするから、先が見えなくなるんです。ホントにちょっとずつです。きのうより、きょうちょっと頑張ればいいんです」

親御さんへの理解も

今後、全国にサービスを広げたいと語った牛島氏は最後にこんなことを語った。

「親御さんとの関係は本当に大事です。親御さんは登録者の意思決定に影響を与えます。それは親御さん以外に信頼できる大人いないからです。親御さんへのアプローチもきめ細やかに行っています」

「ただ、親御さんたちはどうしても過去の考えに捕らわれて子どもたちにアドバイスをしがちです。有名企業がいい、年収1000万円あればいい、こうした過去の考えを解きほぐしていくのも私たちの役割だと思っています」

「非大卒支援は、どの会社も撤退していきました。今後ははこの支援をやり続けた会社としてマーケットを引っ張るリーダーになっていきたいし、多くの企業との連携も模索していきたいと思っています」

「置かれたところで咲くのが大事」と語る牛島氏