「ガラスの靴」——継母や義姉たちから召使いのように扱われた美しいシンデレラが、舞踏会で出会った王子様に見初められ、幸せな生活を手に入れるキッカケとなったアイテムだ。
そんな“ガラスの靴”が東京もあった。
「夢を頑張る女の子」を応援するシェアハウス
訪れたのは、都内某所のシェアハウス。住人は全員「ガラスの靴プロジェクト」を通じ、入居している。「ガラスの靴プロジェクト」は「夢を頑張る。好きなことを頑張る女の子を応援する」のが目的の一つとしている。そのため、住人には歌手を目指している人や、インフルエンサーとして活動する人もいる。そんな彼女たちが自宅から手軽に動画を配信できるよう、機材も常備されている。
また、壁紙も普通のクロスではなく、一面をオシャレなものにし、絵画も配置。これは「配信映え」をさせるためでもあるようだ。
「配信映え」もするリビング
プロデュースするのは22歳女性社長
ニッチなシェアハウスをプロデュースしているのは「株式会社wink」。若い女性の「独立支援」をコンセプトに事業を展開している。
winkの藤政汐里・代表取締役(22)に聞いた。
「winkは『女性独立支援』を目的として今年1月に立ち上げ、後に法人化しました。私自身、企業に就職せず、フリーランスとして活動していて、同じような環境にある子たちと一緒にコミュニティーを作って仕事が出来ればと思い、SNSで募集したところ、たくさんのメンバーが集まりました。いまは全国に450人ほどのメンバーがいます」
わずか8か月ほどで、それだけの規模になることにも驚きだが、どんな人たちがいるのか。
「ライターなどフリーランス、起業を目指す子もいれば、中学生・高校生もいます。あとは海女さんもいます(笑)」
かぼちゃの馬車→ガラスの靴
気になったのは「ガラスの靴」というプロジェクトの名前だ。その理由を聞くと、あの社会問題の話になった。
「ガラスの靴がプロデュースしているシェアハウスのオーナーさんは元々、『かぼちゃの馬車』のオーナーさんなんです」
「かぼちゃの馬車」と言えば、首都圏にあった女性向けシェアハウスだ。運営していた不動産会社・スマートデイズは家賃収入の不払いなどのトラブルが相次ぎ、その後、経営破綻。かぼちゃの馬車のオーナー数百人のほとんどが普通のサラリーマンということもあり、社会問題になっている。
「winkのメンバーの1人が『かぼちゃの馬車』の入居者だったんです。そのメンバーからオーナーさんを紹介してもらい、ガラスの靴をプロデュースすることになったんです」
配信用の機材は、wink側の要望でオーナーが用意し、壁紙の貼り替えなどのレイアウトデザインもwinkメンバーが行ったという。さらに…
「リビングを作ってもらいました。『かぼちゃの馬車』の時は、リビングがなかったんです。『かぼちゃの馬車の時』は出ていく女性が多かった(入居率が高くなかった)そうです。その理由は多分、『交流の場』がなかったんじゃないかと。なので、広いリビングが必要だということで、部屋をぶち抜きました(笑)」
配信時のイメージはこんな感じ
フリーランスは都市群だけ
これまでに「ガラスの靴」で5棟をプロデュースし、今後もwinkのPRの一環として展開していくという藤政代表は「働き方」についても語ってくれた。
「フリーランスという働き方は、都市群でしか発達していないと感じます。地方ではニートと同じ意味で捉える人もいるんです。地方に住む若い女の子の中には、やりたいことがある子がいっぱいいます」
私は「上京経験」がない。正確には6歳の時、北海道から東京にやってきているが、高校を出て、あるいは大学を出て上京した人間ではないので、この「上京感覚」が実感できない。
今回、話を聞いて一番驚いたのは、わずか8か月で女性の独立支援コミュニティーに450人も集まったことだった。しかも、メンバーは10代から20代前半に限定している。にもかかわらず、これだけの人数が集まるということは、一定数の若い女性は、そうした思いを抱えているということなんだろう。
ただ、フリーランスや、その先にある起業で仕事をしていくのは、企業に属するよりは大変なことが多い。藤政氏は語る。
「地方にいると、なかなか実現は難しい。でもせっかく上京するのだから、好きなこと、やりたいことで働いてほしい。東京に来れば、それができるかもしれない。ただ、東京は女の子1人でやってくるのは、勇気がいる。その後押しをするのがwinkなんです」
「好きを仕事に」は簡単ではないが、可能性も「ゼロ」ではない(藤政代表)
結婚・出産の後にも生かせるスキル
また、藤政代表は「その先」も見据えているという。
「winkは、結婚・出産の後にも生かせるスキルや経験を、若い世代から身につけて発信していこうと取り組んでいます。フリーランスが自分自身の強みがないといけないですけど、企業に属さない分、仕事の幅は広がると思います」
それを聞いて、思い出したことがある。結婚して数年の女性の友人には、子どもがいない。子どもがいない理由を聞いたら「産休から戻ったら、給与が劇的に下がるから」。出産でスキルが落ちたわけでもないのに、なぜ給与が下がるのか。
そういう意味では、ずっと使えるスキルを若いうちから、同じ志を持つ仲間とともに身につけていくのは、ある意味最強なのではないか。
今回、取材に応じてくれた「ガラスの靴」の住人でwinkのメンバーでもある栗原万由香さんは「司会者」として、森伽織さんは「島っこライター」として、それぞれ活動している。
2人は「東京」という舞踏会で「ガラスの靴」を履いている。「ガラスの靴」を履いて“華麗な踊り”ができる若い女性が増えて社会での活躍の場が増えれば、大げさかもしれないが「働き方改革」にもつながっていくのではないか。
winkメンバーの栗原万由香さん(左)と森伽織さん(右)