コト

“消しかす”が出ない個別指導塾「下克上」の挑戦

教室背景

東京都港区にある慶應義塾大学・三田キャンパス。そこからほど近くに個別指導塾がある。その名は「下克上」

下克上のミッションは、塾生を目と鼻の先にある「慶應義塾大学の合格」。現在の塾生は50人ほど。しかし、その大半は、入塾時の偏差値が30~40台という、勉強が苦手な受験生だった。

そんな勉強が苦手な受験生を最短で2~3か月、長くても半年あれば、偏差値65以上の慶應義塾大学に合格させることができるという。創業者の西脇氏も3か月で偏差値を40上げ、慶應義塾大学に合格している。

授業をしない

下克上の特徴の1つは「授業をしない」。合格への正しい戦略と勉強法を、塾生に徹底的にたたき込んでいる。

下克上が指定した市販の参考書を使い、参考書の正しい使い方をレクチャー。ダイエットでお馴染みの「RIZAP」のようにマンツーマンで毎日勉強管理をしている。入塾から2~3週間で目に見えて成績が上がるので、塾生たちも勉強が楽しくなっていくという。

「授業」は個人に合わせるのではなく、大人数に合わせる。ゆえに、合わない学習をする可能性が高いため、授業はしていない。必要なところを必要な分だけ参考書で学ぶことで受験の最短コースを歩む。こうした指導法は、大手予備校には、ほぼない。

消しかすが出ない

実際に塾を訪れてみると、ほかの学習塾と違う点があった。消しゴムを使った時に出る「消しゴムかす」が落ちていないことだ。

通常の予備校は、講師が黒板にポイントを書きながら授業を行い、多くの生徒は必死にノートを取る。一方、下克上では書いて覚えることをさせていない。書くよりも話すことの方が効率がいいためだ。書かないから消しゴムかすが出ない。その代わり、音読する声で常に、にぎやかだ。

下克上の杉平涼代表(32)は語る。

「下克上は、塾におけるムダを徹底的に排除しました。授業もしない。ホワイトボードもなくていいし、教室もなくていい。教室はいわば、塾生を見守るためです」

教室の様子教室の様子。塾生たちは参考書を音読している。

卒業生に聞いた

実際に下克上に入塾して慶應義塾大学に合格し、キャンパスライフを送っている2人に話を聞いた。

慶應義塾大学・経済学部1年に在学している土居丈太郞さんは、2017年8月に入塾、当時の偏差値は50ほどだった。

「下克上に入って勉強のイメージが変わりました。最初はしんどかったですが、成績が伸びるにつれて勉強がラクになっていきました大手の予備校や進学塾と違い、地味で真面目ですが、密度は高いですね。大学受験を通して自分を分析して、やらなければいけないことを見つけることが出来たし、一生使える「知識の学び方』を手に入れました」

慶應義塾大学湘南・藤沢キャンパス(SFC)に通う森下直人さんは2017年12月に入塾、当時の偏差値は45ほどだった。浪人を経ての入塾だった森下さんも、下克上で「勉強の仕方や考え方」が変わったという。

「現役の時は、自分の部屋の本棚にノートが10~20冊あって、勉強した気になっていました。それが下克上に入塾してからは、ノートが1冊もなくなりました。勉強の質も変わったので、大学に入ってからは勉強の時間が減って、両親に心配されることもあります。でも、成績はきちんと残しています(笑)」

卒業生2人土居丈太郞さんと森下直人さん

大学受験の先を見据えた勉強法

こうしたニッチな個別指導塾を展開する杉平氏だが、既存の学習塾・予備校について、こんな見解を示している。

「これまでの大手予備校などは、偏差値60の人が65に上がる勉強法が基本です。なので、勉強が苦手な受験生は、授業についていけない。でも、両親にテレビCMが流れている『●●がいいよ』と言われるがままに大手予備校などに入る」

「大手予備校の授業は、エンターテインメント化しています。それ自体は別に構わないのですが、それでは成績は飛躍的に伸びません。勉強が苦手な受験生たちは、エンターテインメント化した授業を聞いて『分かった気』になってしまいます」

「こうした『授業当たり前』の風潮はどうかと。生徒の学力を上げて望む大学に行ってもらうのが目的。なのに、エンターテインメント化した授業は目的じゃない。だったら授業はいらないですよね」

受験生全般への不安も語ってくれた。

「受験生全般に言えることですが、『分かった・出来た』のラインが甘いです。『本当に出来ているのか、分かっているのか』。毎日を振り返って次につなげることが大事です。振り返らないと、ミスはなくせません。下克上は、その日のうちに勉強の内容を振り返るカリキュラムがあります。下克上の講師は、振り返りの詰めの甘さを補足する役割もあります」

「こうしたマインドセットができれば、大学受験だけでなく一生使える知識の習得法が得られます、趣味や仕事では、知識を入れることから逃れることはできません。そんな時、正しい知識の習得法を知っていれば、人生の選択肢が広がるし、新しいことにチャレンジし放題です」

「ダイエットと同じで、勉強も『魔法は使えない』んです。若いウチにその投資して、勉強法が得られてしかも学歴まで手に入る。“利回り”はいいです!」

下克上の杉平涼代表

未来の若者を育て上げる

杉平氏の目標は「未来の若者を育て上げる」ことだという。

「大学受験を通して圧倒的な自信をつけて欲しい。受験はあくまで通過点。そこを本気でやって、卒業生が活躍できる場を作る。自分よりも優秀な人たちを生み出していくことが目標です」

「成績を伸ばす中で少しずつ自信がつく。もちろん、はじめはサポートをしながらですが、勉強法を身につけることで最終的には自立できる。自分の力で勉強して成績を伸ばして志望校に合格する。それが当初の偏差値から比べて高ければ高いほど、つまり下克上できた時の自信はかけがえのないものになる」

「大学受験で得た知識はこの先使うことがなくても、合格する過程で得た自信は、この先の困難が生じたときの強い味方になってくれます」

杉平氏は最後に笑顔でこんなことを言ってくれた。

「僕ら、メチャメチャいいことしていますよ(笑)」