ヒト

「歌人・漫画家・ライター」武井怜を紐解いてみた

4コマ漫画【気遣いの矛盾】 (作・武井怜)
喫茶店に居合わせた女性が、友人に立て替えてもらったコーヒーの値段を、友人が気を遣って安く言っている、と頑なだった。「嘘だ」「本当に300円よ」「嘘よ」。奢ってもらうことが申し訳ないための気遣いを、気づけば強気に、まるで怒っているように伝えてしまう矛盾はよくある。

「3つの肩書きを持てば、あなたの価値は1万倍になる」—堀江貴文氏のベストセラー「多動力」の書かれた言葉だ。私の周りでも様々な活動をして「多動力」を持つ人は数多くいるが、少しニッチな「多動力」を持つ女性がいる。

武井怜さん(30)は「歌人」「漫画家」「フリーライター」という3つの肩書を持つ。短歌をかいたり、漫画を出版したり、ニュースサイトで記事を書いたり、イラストを描いて発表したり、フリーペーパーを発行したりと、多動力を持った女性だ。

小さいときから「芸術家になろう」と

「小さい頃、毎朝、会社に行く父を見ていたから、私は大人になっても1人でややこしい電車に乗って、会社という場所でややこしいコンピューターを操る人には、到底なれる気がしなかったんです。芸術家はマイペースにできるから芸術家になろうと、子どもの世界で思ったんです。その影響からか、字が書けるようになってから、詩や絵本を作って両親にあげていました」

「中学時代はノートや学校の机にびっしり(フォークユニットの)「19」の歌詞とかを書いていました。テスト前は、消すのが大変でした (笑)。人の才能に触れて、悩み多き思春期の心を支えてもらって、私も自分の言葉を作れる人になりたいと思いました」

「歌人」を目指したのは、高校時代だったという。

「短歌のほうが詩よりも競争率が低そうだから、有名になれる確率が高いと踏んだんです(笑)。『武井桁は短歌の人』と世間の人たちに呼ばれることを目指しました。19歳の頃、イベンターさんと知り合って、ライブのサブタイトルに短歌を使ってもらいました。あと、カルチャースクールで短歌の講師もしていました」

「短歌は、わかりやすい内容のものが、比較的多くの人に気に入っていただける印象です。でも、『何言ってんの、この人』みたいなほうが、私は好きです。例えば『いやこれは 劣等感ではない 急に二の腕が冷えて 寒いだけだな』とか」

「気にしすぎる性格」が漫画に

漫画家としては、2015年にコミックエッセイ「気にしすぎガール」を出版した。「SNSに気軽に投稿できない」「カラオケでも選曲に気を遣いすぎる」「自分のうっかり発言に、のちのち後悔が止まらない」など、気にしすぎガールの性格の日常を漫画した作品だ。

「私自身が『気にしすぎガール』で、仕事の電話も「お世話になります。」から言うことを紙に書いているし、今回の取材も「全然話せずに、迷惑をかけるのでは」と気にしすぎて、事前に言うことを紙に書きました(笑)。ただ、『気にしすぎ』の面が『本の出版』という夢をかなえてくれた。本を出版させていただいたことで自信になったし、いろんな人に、いろんな思いに出会えています」

吉祥寺の書店「ルーエ」の一角に置かれたスペース「無料の武井怜」

人生はコメディ

武井さんの表現の場であるツイッターをみると、投稿は「ごちゃまぜ」な印象で、イラスト、4コマ漫画、短歌など、その作品の多くはユニークなものだ。多動力の源泉を聞くと、

「飽きっぽいし、流されやすいんですけど、面白いと思ったモノはやってみる。くだらないと思っても続けてみます。私が執筆した記事で、『イケメンな“しらす干し”を探す!」というのがあって、それはさすがに『何してるんだろう』と思いましたけど(笑)」

「『人生はコメディ』だと思っています。海外のコメディドラマを見ていると、たいていのことが笑いになります。私が生きるこの世界も『コメディ』の舞台で、私はその登場人物だと思うと、『つらいことも軽くなる。生きづらさもネタである。』って、これ、他の人も言っていた気がして、また気にしてます(笑)」

奇妙礼太郎さんに私の詞を…

そんな武井さんは、さらなる「多動力」を得ようとして活動している。

「エッセイの出版がしたくて、SNS で更新しています。私自身、3行以上の文を読むのが苦手なので(笑)、ツイッター でも読んでもらえる 140 字を目安に書いています。ふとした時に『武井怜がこんなこと言ってたな』と思い出してもらえるような本を出版させてもらいたいです」

「仲のいい芸人さんがいて、その人たちのお話を聞いているとやっぱり面白くて、プレゼントをいただいたような気持ちになる。『お話を聞かせて』って思う。自分の世界、自分の言葉を築いていきながら、そういう宝物のような本を作りたいです」

「作詞もしたいんです。自分の言葉を声にして世に広めてほしい気持ちが強まっていて、奇妙礼太郎さんに私の詞を歌ってもらうことが目標の一つです」

取材時も何かと「気にしすぎ」てくれた武井さん

「肩書」ってなんぞや?

武井さんを取材しようと思ったキッカケは、複数の肩書を持った人で変わったバックボーンを持った人の話を聞いてみたいという思いからだった。

私もいま、人に胸を張って言える肩書が3つある。なりたいと思ってなれた「放送作家」、放送作家としての修業のようなものとして就いた「ニュースサイトのエディター」、そして「Webメディアの運営者」。

複数の肩書を持って活動する人は「何かうさんくさそうな人」というイメージがあって、自分の紹介をするときも「放送作家です」とは名乗っていたが、ニュースサイトでの仕事のことをしゃべるのは控えていた。

しかし、仕事を通じて会った人たちに話を聞くと、「自分」という軸をぶらさずに様々な活動をしている人がたくさんいた。会社員なのに「社会を良くするため」大学で非常勤講師をしたり、自治体の職員なのに「地方を良くするため」全国飛び回って講演したり、そんな人たちと接するうちに、「軸がぶれなきゃ、どーでもいいんだ」と思うようにもなった。

そんな折、以前読んだ「多動力」での肩書のことを思い出し、さらに思い出したのが武井さんだった。武井さんは数年前、先輩の放送作家が主催してくれた「マニアさん交流会」で初めて会ってから、フェイスブックやツイッターを通じて互いの活動は把握していた。

私よりも10歳も年下なのに活動を増やし続け、表現をし続け、肩書が増えている武井さんが、どんなことを考えているのか、nittiを作ったタイミングだったので聞いてみようと思った。

新たに「エッセイ作家(仮)」「作詞家(仮)」という肩書を作ったブレない「武井怜」に注目していこう。